シンガポールでは8月頃になるとヘイズ(英:Haze)という現象を目にする事があります。ヘイズは規模の大きな野焼きによって人為的に起こされる煙霧で、東南アジアでは深刻な環境問題となっています。

ヘイズは乾いた微粒子によって街全体が霧に包まれる現象で、発生すると視界が悪くなると他、辺り一帯に焦げたような臭いが充満します。

ヘイズには様々な有害物質(二酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄、PM10、SO2、NO2、CO、O3、PM2.5)が含まれていて、その中でも健康被害が大きく日本人にも広く知られているのがPM2.5(Particulate Matter 2.5)です。

シンガポールでのヘイズ

シンガポールを含む東南アジアで起こっているヘイズは、インドネシアのスマトラ島やカリマンタン島で行われるプランテーション開発に伴う人為的な野焼きと泥炭火災が主な原因となっています。この野焼の際に発生した煙霧がモンスーン(偏西風)に乗って東南アジア諸国へ流れ、各国で問題として取り上げられています。また、インドネシアでの野焼きは5月~10月の乾季に発生し、シンガポールでは8月~10月に濃いヘイズが確認されています。

プランテーション開発とは?

プランテーション開発とは、大規模工場生産の方式を取り入れ、熱帯、亜熱帯地域の広大な農地で単一作物を大量に栽培する大規模農園です。ヘイズの原因となっているインドネシアのプランテーション開発の背景には、土地保有、貧困、人口増加問題、移民問題などがあります。

プランテーションを行う大手企業に対する野焼き規制は強化されているのですが、農地確保には野焼きが最も経済的な方法となっている事がヘイズ撲滅が難しい理由として上げられています。

ヘイズによる影響と被害

PSI(大気汚染指数)とPM2.5(微小粒子状物質)

シンガポールでは、ヘイズの度合いを示すためにPSI (大気汚染指数)とPM2.5(微小粒子状物質)の2つの数値が使用されています。また、シンガポールの環境省 (National Environmental Agency) では、ホームページやモバイルアプリなどで毎時間エリア別でPSI値を公表しています。

PSI (大気汚染指数)

PSIはPollutant Standards Indexの略で、大気汚染の度合いを示す数値です。PSIが危険レベルとなる300を超えると、シンガポール国内の学校は休みになります。

大気汚染指数値 大気の状態
0 - 50 良好
51 - 100 やや不良
101 - 200 不健康
201 - 300 非常に不健康
301以上 危険

PM2.5(微小粒子状物質)

PM2.5はParticular Matter 2.5の略で、大気中に浮遊している2.5μm以下の大きさをしている小さな粒子を意味します。PM2.5は非常に小さい粒子のため肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系や循環器系へ影響お及ぼす可能性もあります。

PM2.5値 (µg/m3) レベル PM2.5の量
0 - 55 I 普通
56 - 150 II 少し高い
151 - 250 III 高い
251以上 IV 非常に高い

人体への影響

ヘイズが人体へ及ぼす影響には目、鼻、喉、皮膚のかゆみや充血、鼻水、くしゃみ、咳などが挙げられます。それ以外にも気管や肺などの呼吸器系や循環系に持病を持つ方の症状悪化なども確認されています。また、外務省や現地日本大使館も特にぜんそくや心臓疾患を持つ方は注意をするように呼び掛けを行なっています。

経済への影響

ヘイズは経済にも影響を及ぼします。飛行機、船舶などの交通機関では視界不良で欠航が発生したり、観光業や外食産業では顧客数の減少が起こります。その他にも医療費、商業活動への打撃も報告されていて、1997年に起こったヘイズ(3ヶ月間続いた)では総被害額は当時90億ドルに達したと推定されています。(この年ガルーダ・インドネシア航空では、ヘイズの影響で計449本のフライトがを欠航となりました。)

過去に起こったヘイズの被害

シンガポールでは1997年、2006年、2013年、2015年に大規模なヘイズが発生しました。

その中でも最も深刻だったのが1997年に発生したヘイズです。1,000万ヘクタール近くの大規模な火災と、エルニーニョ現象に伴う乾燥とが合わさって過去最大規模の煙霧が発生しました。また、このヘイズでは、シンガポールのみならずインドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、タイの計6か国に大きな影響を受けました。

2015年にも大規模なヘイズ(200万ヘクタールを超える森林火災)が発生し、このヘイズでは、21名の死亡者が出ています。

ヘイズ対策

越境煙霧汚染ASEAN協定

ヘイズの被害を抑えるために2002年にASEAN加盟国(10か国)によって結ばれたのが越境煙霧汚染ASEAN協定です。

同条約は、大気汚染を引き起こす土地・森林火災への対処が目的とされて、協定内では下記のような戦略が挙げられています。

  • 同協定の導入
  • 泥炭地の火災を防ぐ為の持続的管理
  • 農地や農林の持続的管理
  • ポリシー、法、規律の強化とその導入。実施国間での過去事例や情報共有の促進。
  • 各国協力の向上、情報技術の共有、全ての機関のキャパシティの強化
  • 健康・環境リスクの減少、地球環境を守る

上記は簡単な翻訳ですので、詳しくはASEANのホームページを見てみて下さい。」

プランテーション製品の不買運動

シンガポールでは政府始動でインドネシアのプランテーション製品の不買運動を行なっています。これは、シンガポール人がプランテーション製品を購入する限り生産ニーズが無くならないという政府の判断の末に始められました。この運動によってシンガポール国内の多くの企業がプランテーション製品の取り扱いを停止しています。

ヘイズ専用アプリ(シンガポール)

myENV

シンガポールの環境庁(NEA : National Environment Agency)が提供するスマートフォンアプリで、PSI値を「時間別」「地域別」で見ることができます。また、「PM2.5」の濃度を見ることができます。

myNEVの面白いところは、ヘイズ以外の目的でも使えてしまうところです。リアルタイムで降水量や風速、UV量のような気象情報が確認できたり、ホーカーマップと飲食店の衛生レベル等の確認もできます。

調べてみるとヘイズ専用のアプリはいくつかありますが、私個人的にはmyNEVが一番おススメです。政府が出しているアプリという安心感とホーカーマップ等のヘイズ以外の目的でも使えてしまうのが便利です。

環境庁のウェブサイト

シンガポール環境庁のウェブサイトでもヘイズの情報が乗せられています。 (https://www.haze.gov.sg/)

個人でできるヘイズ対策

ヘイズの主な対策方法して挙げられるのが次の4つです。

  1. 外に出る時間を減らす
  2. 手洗いうがいを丁寧にする</
  3. マスクをつける
  4. 空気清浄機を使う

PM2.5は粒子が細かく普通のマスクでは防げません。また窓の隙間から室内に入ってきてしまうこともあり、PM2.5の濃度が高い日は、専用のマスクと空気清浄機で対策します。また、マスクも通常の物ではなくN95と呼ばれる米国労働安全衛生研究所の規格をクリアした微粒子用マスクを使用する必要があります。

N95マスク

粒子の細かいPM2.5に対応したマスク(N95規格)です。顔に密着させるマスクですので息がしづらく、長時間の装着には向いていません。

Air + N95マスク

N95マスクに小型のファンと息の排出口が付いたマスクです。N95マスクの欠点である息のしづらさと暑さ対策が施されたN95規格マスクです。

まとめ

ヘイズは長く問題視されながらも、まだ解決方法が見つかっていません。その背景の一部としては、プランテーションによって生産された商品へのニーズが無くならない事などが挙げられるようです。