シンガポールには毎年「ハングリーゴースト(英:Hungry Ghost)」と呼ばれる時期があります。ハングリーゴーストは中華系の方々が持つ文化の1つで、この時期になると死者の魂がこの世に帰ってくると信じられています。そのため、この期間中は死者の供養を行う為に様々な事が行われます。

ハングリーゴーストの時期は、旧暦 の7月となります。そのため別名で「7 month」や「7th month」と呼ばれる事もあります。(筆者の周りでは、ハングリーゴーストの名称を口に出すのを避けて「7th Month」 と呼ぶ方が多いです。)

また、日本にも似た習慣として「お盆」があります。ただ、お盆では自身の祖先の霊を迎えて供養するのに対し、ハングリーゴーストでは自身の祖先以外となる霊も含めて供養を行います。

ハングリーゴースト中には霊への供養が行われる

ハングリーゴーストの期間中には、無くなったご先祖様を弔う為に一族の位牌や写真の横で線香を焚きます。また、霊が空腹にならないように食べ物を供えたり、家族でご馳走を食べたりします。

ご先祖様以外の霊にも供養を行う

この期間中にこの世に戻って来る霊の中には、誰にも供養されずただ彷徨っている霊がいると信じられています。また、そう言った例が空腹のあまりに悪さをするとも考えられています。そのため、ハングリーゴーストの期間中には、そのような彷徨った霊を供養するための行い事をおこないます。

■ 食べ物を供える

この時期になると、彷徨う霊が空腹にならないように道端に食べ物をお供えします。また、供えられた食べ物を踏んだり蹴ったりするのはご法度となるため、皆足元に気を配りながら歩きます。

■ お金に関連する物(レプリカ)を燃やす

ハングリーゴーストでは「お金」に関連する物(レプリカ)を燃やす習慣があります。これには、自身のご先祖様が死後の世界でお金に困らないようにという思いが込められていて、お金以外にも時計や宝石、車、豪邸、スポーツカーなどを模した紙製のレプリカ(仏具屋さんで売ています)を燃やします。燃やされた贈り物は煙となって死者の元へ送られると信じられています。贈り物を燃やすための金属制の箱(缶)はシンガポールのいたるところに設置されていて、贈り物を燃やす光景を目にする事も少なくありません。

■ 娯楽で霊を迎える

ハングリーゴーストの時期にはチャイナタウンで『ゲタイ』と呼ばれるイベントが行われます。これは、地上に戻って来た霊を楽しませるためのショーで、京劇(中国オペラ)やダンスショー、コメディーショーなどが披露されます。

ゲダイはシンガポールの都市部外にテントを設置して行われます。ゲタイの開催目的は霊を弔うことにあり、そのため会場に設置される座席の最前列は、霊が座る特等席として常に空席にします。

ハングリーゴースト中にやってはいけない事

中華系の方々の間では、霊が彷徨うとされているハングリーゴーストの期間中には控えておいた方が良いとされている行いがあります。

※前提として、上記の様な内容をどれだけ避けるかは各個人や家庭によって変わってきます。なかには中華系であってもあまり気にされない方もいらっしゃいます。また、若年層よりも年配層の方が上記の習慣をより重く受け止められています。

■ お祝いごとを避ける

ハングリーゴーストの期間中にお祝い事を行うのは縁起が悪い(この月にお祝い事を行うと、何か不運にみまわれる)と言い伝えられています。筆者の周りでも、中華系の方々はこの時期の結婚式やリノベーションを極端に避ける方が多いです。

■ 夜間は出歩かない

この時期になると、夜の外出は避ける習慣(特に小さい子供)があります。これは、寒くて暗くい場所で霊がより活発に動けるからだと言われています。また、

■ 水辺に近づかない(海、川、プールなど)

霊の中には「自身が生まれ変わる為に、生きている人を水の中に引き込んでしまう霊」もいると信じられています。その為、ハングリーゴーストの期間中は水辺(特に夕方以降)での遊びを避ける習慣があります。

■ 家のドアを開けっぱなしにしない

ハングリーゴーストの期間中、家のドアを開けっぱなしにする行為は、霊を招き入れる行為だと考えられています。そのため、この期間中は霊が家に入って来ないように出来る限り玄関のドアはすぐ閉めた方がいいと信じられています。