ホーカーセンター(Hawker Centre)

ホーカーセンター(Hawker Centre)とは?

ホーカーセンター(英:Hawker centre)は、シンガポールの地元民が頻繁に利用するフードコート(マレーシアなどでも見られる)で、主に地元料理を提供する屋台が達並ぶ施設です。リーズナブルな価格で多彩な料理を楽しめるのが特徴で、現地民の日常的な食事場所として賑わっています。また、ホーカーセンターはシンガポールが持つ食文化の一つでもあり、一部のホーカーセンターは観光客向けのスポットとしても機能しています。
更に、シンガポールのホーカー文化は、2020年にユネスコの無形文化遺産にも登録されています。

ホーカーセンターの利用方法

ホーカーセンターでは各屋台で好きな食事を購入し共有スペースで食事を楽しむことができます。テーブルや椅子は共有されますが、ホーカーセンターが混んでいない限り相席はあまり起こりません。また、食後の食器やトレイは自分で返却コーナーへ持って行くのが一般的です。この辺は、通常のフードコートと殆ど同じです。

最近のホーカーセンターは、現金、クレジットカード / デビットカード、コンタクトレスなど様々な支払い方法に対応しています。ただし、古いホーカーセンターや屋台によってはクレジットカード / デビットカードに対応していない場所もいくつかあります。その為、ホーカーセンターに行く場合は、現金もしくは現地の支払い方法(Pay NowやPay Lahなど)を準備しておくといいでしょう。

ホーカーセンターの仕組みと特徴

ホーカーセンターは一般的な飲食店とは異なり、以下のような特徴を持っています。

政府機関による管理

ホーカーセンターはシンガポールの政府機関であるNational Environment Agency(NEA)主導のもと管理されています。シンガポール政府では、ホーカーセンターの公衆衛生や施設環境の管理を行う為に以下の事を行っています。
※近年では、一部ホーカーセンターの運営が民間の運営団体に任されています。

■ 屋台業者へのライセンス発行

ホーカーセンターの屋台業者は、屋台の運営をする為にSingapore Food Agency (SFA)から発行されたライセンスを取得する必要があります。また、SFAのライセンスはシンガポールの食品衛生基準に基づいて発行されます。

■ ホーカーセンターの衛生検査と監視

NEA及びSFAは、定期的にホーカーセンターと各屋台の衛生状況をチェックし、シンガポールが定める衛生基準が守られているかの確認を行っています。各屋台の衛生状況はAからDの4段階で評価(Aが最良)され、店頭に掲示されます。

■ 家賃の設定

ホーカーセンター(屋台スペース)の賃料を設定し、業者が低コストで営業できるよう管理を行っています。これは、地元の人々が安価で食事を楽しめるようにするための施策でもあります。

■ 多国籍な料理

ホーカーセンターは、シンガポールの多民族社会を反映する場所としても知られています。その為、ホーカーセンターでは以下のように様々な民族料理が提供されています。

ジャンル 料理
中華料理 チキンライス、チャークイティオ、ワンタンミー(ワンタン麺)、ホッケンミー(福建麺)など。
マレー料理 ナシレマ(ココナッツライスとサンバルソース)、サテー(ピーナッツソース付きの串焼き)など。
インド料理 ロティプラタ(インド風パンケーキ)、ムルタバ(具材入りパンケーキ)など。
プラナカン料理 ラクサ(ココナッツミルクベースのピリ辛麺)、チャプチャイ(春雨・キャベツ・椎茸などの甘辛煮)、オタオタ(魚のすり身とスパイスの包み焼き)など。

ホーカーセンターは大型のフードコートですので、これらの地元料理以外にも日本料理、韓国料理、香港料理、ウエスタン料理など、様々な料理を提供する屋台が出店をしています。

■ リーズナブルな価格

ホーカーセンターでは、多くの料理が10ドル未満(筆者の体感では平均6〜12シンガポールドルほど)で提供されています。

ホーカーセンターが提供する良心的な料金帯の背景には、政府施策による運営コストの削減や共有設備の活用、屋台同士の価格競争などがあり、地域住民が手頃に食事を楽しめるよう様々な工夫が施されています。

ホーカーセンターの歴史

ホーカーセンターの始まり

ホーカーセンターの起源は、かつてシンガポールで見られた屋台業者(ホーカー)に遡ります。初期のホーカーは移動式の屋台で、市場や住居街で屋台料理を販売していました。ですが、時が進みホーカーの数が増え、公共空間の独占や衛生問題、治安問題、交通問題などが発生するようになってしまいました。そこでシンガポール政府はホーカーの規制強化を行い、現在あるホーカーセンターの基盤が誕生する事となりました。

規制後のホーカー

シンガポール政府は、ホーカーの営業を許可制にしました。これにより違法なホーカーは取締られ合法的な業者のみが営業できるようになりました。また、路上の屋台を取り締まる一方で、政府はホーカーが衛生的かつ安全に営業できる場所を提供するため、専用の屋内外施設であるホーカーセンターを建設しました。

ホーカーセンターの整備と拡大

シンガポール政府は、ホーカーセンターの建設を続けました。特にHDBなどの住宅街や商業エリアを中心にホーカーセンターの設置が進められ、次第に地元の食事スポットとしてのアイデンティティが確立されていきました。また、清潔で安全な食事環境が保たれるようホーカーセンターへの衛生管理を強化も行われました。

現在のホーカーセンター

ホーカーセンターの設備がさらに近代化され、清掃やゴミ処理の効率化が進められました。更にトイレの改善や食器返却システムの導入などを含めた大規模なリノベーションも行われ、より快適で清潔な食事環境が提供されるようになっています。

また、現在のホーカーセンターは観光資源としても注目されていて、シンガポールが持つ多民族文化と食文化の象徴として観光ガイドブックなどでも取り上げられています。そのため、現在では多くの外国人観光客が訪れるようにもなっています。

ホーカーセンターが持つ課題

ホーカーセンターはシンガポールが持つ大切な食文化の一部ですが、その一方で次世代のホーカー(屋台業者)の確保、持続可能な運営、新しいビジネスモデルへの対応を求められるといった課題にも直面しています。

このような問題への対策として、ホーカー向けのトレーニングプログラムや起業支援に加えて、一部ホーカーセンターの管理運営を民間団体に任せる事による効率化と持続可能モデルの構築などが目指されています。